二年のクラスに慣れ始めた頃、たまたま隣の席になった男と大介は話をした。
「オレ、柴田大介って言うねん。よろしくな」
「俺は水月海斗。よろしく」
　これが海斗と大介の運命の出会いである。
「海斗って埼玉出身なん？」
「あぁ。大介は大阪か？」
「おん。中三の時にこっちに来たんよ。で、三月までバンドやってた」
「もしかしてＤｉｇｙとＬａｒｖａか？」
「知ってんか？オレは成弥とＤｉｇｙやっててん。海斗は？」
「俺はバスケ部でレギュラーやってる。でもバンドっていいよなぁ。俺もギターは習った
ことがある」
「ほんまか？どんな音楽好きなん？」
「そうだなぁ。基本的には何でも聴くんだけど敢えて言うならデジタルロックかな」
「マジで？オレもやねん。どうや、オレとユニット組まへん？」
「部活やってるけどいいか？あまり時間取れないかもしれないが」
「かまへん、かまへん。とりあえずギターを弾き始めたらええねん。何なら教えたろか」
　いきなり意気投合してしまった二人は、善は急げとばかりにギターを持って大介宅で練
習することになった。
　しかし、海斗に何も教えることはなく、さらっと普通に弾けてしまったのである。
「何や、出来るやん」
　もう何もすることがなく、色々と話を始めた。普段やっていることとか自分自身のこと。
「そうだ。大介に言っておきたいことがぁる。俺な、人の心が見える能力があるんだ」
　海斗の言葉に大介は驚いた。その驚きは普通の人とは違う驚きである。それは自分と同
じ能力者でそれについて悩んでいるということに驚いたのである。
「えっ海斗も？オレもな触れた所の病気が治ってしまう能力持ってんねん。それでな」
　大介は今度は自分が話すと言わんばかりに夢の話をし始めた。毎日見る夢には自分の他
に四人超能力者がいて、地球を救うがどうだとかと。するとその話に何か感じたのか海斗
が目を丸くしたのである。
「それ、俺と同じ夢・・・」
「えっ？海斗も同じやて？」
　意外なことに気が付いた二人の間にしばしの沈黙が起こる。そして次の瞬間二人は声を
揃えて叫んだ。
「あっ！わかった！」
「夢で会うてるやん」
「そうだよ。俺も大介に会ってる。でも同級生でこんな近くにいるなんて信じられない」
「ほんまやな」
　探してた存在にこんな早くに出会えるなんて思っても見なかった二人は喜びを隠せない
ようだ。しかしその直後、二人は変な感覚に襲われた。
「──！」
「──っ海斗・・・無事か？」
　意識がはっきりしてきたところでお互いの意識を確認した。
「何だったんだ？今のは・・・」
「何やろう。白昼夢っぽいんやけどな」
「凄く違和感が残ってるな」
「おん」
　二人は白昼夢の内容を確認するように話し合う。すると二人の感じ取ったものが綺麗に
一致したのである。
「確かにいつも見る夢だよな。でも話してることが違う。俺たちの運命とか全員が揃った
時に災いが起きるとか・・・」
　一致したはいいがその内容が今一理解出来ない二人の間に再び沈黙が起こる。
「あっそうや！ネットやネット」
　大介は自分の机に置いてあるパソコンの起動ボタンを押す。
「何するんだ？大介」
「ネットや。それでオレたちと同じ状況下の人間を捜すねん」
「そう簡単に見つかるのかよ」
「わからん。でもやってみる価値はある」
　二人並んでそれらしいサイトのリンクを辿り、二〇分程画面と睨めっこをしていた。
　すると奇妙なホームページを見つけたのである。設置日も更新日も書いていないさらに
カウンターも回っていないホームページである。そして自分たちの状況と酷似している内
容が書かれていた。
「『この世に生を受けし六つの御霊、共に同じ夢を見、同じ時間、同じホログラフを持つ
九月一九日生まれの五人集う頃、この世に災い目覚める時となり。すべての結末を作るの
は五人の能力になろう』と書いてある」
「何かオレたちの事みたいやな。オレ、九月一九日生まれやし」
「でもこの文章おかしくないか？『この世に生を受けし六つの御霊』ってあるだろ？でも
『五人集う頃』って書いてある。普通なら六人じゃないのか？」
「うーむ。これは残りのメンバーを捜す必要があるな」
「そうだな」
　二人は残りのメンバーを捜すため、リンクされていた掲示板にメッセージを残すことに
した。だが、メンバーはそう簡単に見つかることはなかった。
　それから数日後、海斗と大介はＰＡＲＡＤＩＳＥというユニットを組み、いつものライ
ブハウスで活動を始め、それを知った元Ｄｉｇｙファンが次々とライブに足を運ぶように
なった。気が付けばいつの間にかＤｉｇｙよりも多い数のファンが付いていたのであった。
「凄いな、ファンの数。辞めて損したな」
　時々バックで演奏をする事があった成弥は自分がいた頃と違う状況に愚痴をこぼしてい
た。
　しかし、そんな成弥も夏を過ぎて二学期に入ると本格的な受験勉強を始めるようになり、
サポートメンバーなしのＰＡＲＡＤＩＳＥのライブが行われるようになった。そして受験
勉強に手を付けていないのが大介と海斗と瞬だけという状態になった。
　三年にもなると大介と海斗は気分転換にバンドをやりつつ大学へ行ける程度に勉強もし
た。その甲斐あってか二人とも同じ大学に合格し、また四年間一緒に過ごすことになった
のである。
「四年間一緒だな」
「そうやな。変わらずよろしゅうな」
　最近の二人は受験での出来事が笑い話に発展してしまう程仲がよい。それだけ同じ時間
を共有してきたという証なのであろうか。
　同じく瞬も成弥もそれぞれの志望どおりの道に進んでいった。
　一方、受験勉強をするからといって脱退していった元Ｌａｒｖａのメンバー達は、あん
なに早くから受験勉強に取りかかったのにも関わらず、全員浪人生という結果に。これも
運命というか何というか・・・。

　大学生になると今まで以上に活動を活発にするようになった大介と海斗は、観客動員数
も大幅に増やし、近所のライブハウスから区の公民館へと会場の規模を変えていった。
「大介、新曲の方出来たか？」
「ゴメン・・・全然思い浮かばへんねん」
「・・・ったくぅ。もうすぐライブだからしっかりしろよ？」
「判った。頑張ってみるな。んで海斗の方はどうなん？」
「もう終わった」
「うそやぁ！」
　最近なかなか曲が思うように書けない大介は、一人徹夜を余儀なくされることになった。
　そしてそんな音楽活動に終止符が打たれようとしていた四年の冬のこと。大介の提案で
東京のライブハウスで行われるアマチュアバンドの合同ライブに参加することになった。
そのライブに参加するにはデモテープ選考オーディションに合格しなくてはならないとい
う、バンド活動する人達にはデビューへの登竜門として利用されるライブなのである。例
えどんなに東京で有名のバンドでも参加するのは難しいとされている。そのライブに大介
と海斗のユニットＰＡＲＡＤＩＳＥが出場出来るのである。
「合格するなんて信じられへんな」
　何気なくテープを送った二人はこのことがまだ信じられないようで合格通知を眺めては
夢じゃないかと頬を抓ってみる日々が続いていた。
　そしてライブ当日。今日の会場であるクラブ・クライムエイムの控え室。緊張という張
り詰めた空気の中、二人の姿はあった。
　しかし、二人には悪い意味での緊張はなく、むしろ少しリラックスしている。まぁそう
いうところがＰＡＲＡＤＩＳＥの良いところである。
　そんな彼らの出番は二〇組中七番目。客がちょうど盛り上がり飽きが来る前という良い
ところだ。特にこのライブでは最初よりも後、最後よりも前かと言って中間ではなく、そ
の少し手前が業界人が見ているところだという噂があり一番羨ましがられる。それもその
筈、その辺りで出場したバンドがデビューしている確率が高いというのだ。
「いよいよだな」
「まぁいつも通りに楽しんでやろうや」
「そうだな」
　バンド紹介が終わると同時に二人はステージ上へと出て行った。
　今日の曲はデモテープで送った三曲を披露する。もちろんバックメンバーに成弥は居な
い。二人だけの二人の実力を見せつけるライブだ。
「キミを傷つけた───♪」
　海斗の歌声と大介のギターが一つになると同時にこの会場に来ている何千人もの客の声
が一つに重なり合った。
　それは今まで体験したことのない、何とも言えない気持ちに変わっていた。
「ＰＡＲＡＤＩＳＥのお二人、ありがとうございました」
　ふと気が付くと全曲演奏し終え、手を振りながらステージを後にする自分たちがいた。
「凄く気持ちよかったな」
「おん。あの一つになった時の感覚、今まで感じたことなかったやん？」
　ライブの感触を思い出しながら控え室に戻る二人の前にスーツ姿の男が立っていた。
「柴田大介さんと水月海斗さんですよね？」
「そうですけど・・・・何か用ですか？」
　突然現れた男を『何やねんこいつ』的な目で大介が見つめた。その視線に不審な男と勘
違いされては困ると胸ポケットから名刺を取り出した。
「私、Em'e・Recordの栗原と申します」
「Em'e・Recordさんがこんな俺たちに何か？」
「はい。結論から言わせていただきますと、私たちEm'e・RecordからあなたたちＰＡＲ
ＡＤＩＳＥをプロデビューさせたいと」
「えっ？デビューやて？」
「はい。今、有力新人を捜してまして、それであなた方をと。実を言いますと以前ライブ
を拝見させていただいてるんですけどね」
　二人は顔を見合わせてお互いの頬を抓った。痛い。これは夢ではなさそうだ。
「あなたたちは埼玉の方ですよね？急で申し訳ありませんが今から一緒に本社の方へと来
ていただけませんか？プロデューサーに会わせたいので。それで彼の話を聞いてからデビ
ューするかしないかをお答えいただければ結構なので」
　栗原という男に言われるままひとまず本社へと出向くことになった。
　Em'e・Record本社五階。哉がここに来た時に通された部屋に大介と海斗も通された。
　コンコン・・・。
　二人の待つ部屋のドアをノックする音。栗原は「どうぞ」とドアを開いた。
　胸がはち切れんばかりに緊張していた二人の前にサングラスをかけた小柄な男が姿を現
した。
「西室さん。この二人が以前話した男の子たちです」
　「そうですか」と一言だけ口にした男はかけていたサングラスを外した。
「西室哉です。初めまして」
　何とその男は一年程前にプロデビューを果たした哉であった。今ではどの曲も大ヒット
を記録する大物新人となっている。その哉が今度プロデュース業をするというのである。
次の売り方をレコード会社が考えたということであろう。
「柴田大介です」
「水月海斗です」
　二人は深々と頭を下げその頭を戻した。そして哉の顔をしっかりと捕らえた時、二人は
何かに気付いたような声をあげた。
「あぁっ！」
　一瞬、その場が静まり返る。何事が起きたんだという感じである。そしていきなり叫ば
れて驚いていた哉も何かに気付き、二人が叫んだ意味が理解した。
「もしかして・・・・」
　しかし、この状況下で一人だけ理解出来ていない人間が一人・・・栗原だ。
「西室さん、彼らとお知り合いですか？
「あっ栗ちゃんは知らないんだっけ？僕さぁ昔から毎日夢見ててね・・・」
　と淡々と話し始めた哉。その話を聞いて納得しろって言うのは無理があるが何となくで
も栗原は理解したようである。
「へぇそれがこの二人って訳ですか」
「そういうこと」
　探していた仲間が見つかって喜んだ数日後、二人のデビューが正式に決まり、デビュー
用のレコーディングに入った。そこでも三人は夢の話で盛り上がり残り二名を探そうと考
え始めたのであった。