今から１００年程前のマテリア暦５７１２年、宇宙全域を警備する宇宙警察Prive.G.
 Logicがグラス＝ローンの手により銀河系第２５惑星ネルミアの地に設立された。
　その当時は有能な者しか入隊できず、ましてや上司に反抗するなどもってのほかであっ
たのだが、現在の本部のある銀河系第１２惑星ユエに移転してきた頃から入隊する者の中
に、上司に反抗する者や自分の事しか考えていない者などが増えた。

　しかし、その中にはかなりの有能な人物もいた。そこで彼らを失わないためにと１０年
前に有能な者の為の左遷場所、Speaking　Dog通称SpeaDが新しい部隊として作られたの
である。

　　　１

　マテリア暦５８１２年のある日の事、地上３０階から地下五階まであるＰ．Ｇ．Ｌ本部
のビル。その１５階にSpeaDの（一応だが）指令部がある。
　そこに向かって二人の男が歩いて来る。
「Speaking　Dogって何で付いたんですか？」
「あぁ。それは本部司令官が喋る犬だったからさ」
　前者は身長１４０ｃｍぐらいで、髪は茶に近く、ショートである。顔からはあまり判断
出来ないが、制服にハーフパンツを着用している所を見ると２０未満である事は確かだ。
そして彼の隣りを歩く、もう後者はというと、身長は１８０ｃｍに近いであろうか、茶髪
に少し髪は長く、隣りの彼と比べるとかなり年上である。しかも制服は、ごく普通のパン
ツを着用している。
　言い忘れたが、何故制服で年齢の見分けが付くかというと、Ｐ．Ｇ．Ｌの制服は、２０
未満はハーフパンツ着用可となっていて、そのほとんどがハーフパンツ型を好み着用して
いるからだ。
「さあ。ここが俺たちの指令部だ。どうぞ」
　扉を開けたその先には男が２名、女が１名、それに犬と猫が待っていた。
「みんな。新しいメンバーだ。Com. Progriseから移動してきたプロファイリング・ＥＰ
の芙蓉雪蔵くんだ」
「どうもはじめまして、芙蓉雪蔵です。よろしくお願いします」
　雪蔵はペコッと頭を下げる。
「雪蔵くんはこのSpeaDでは最年少の１５歳だ。・・・だからといって仕事のハンデはな
いぞ。さて、メンバーの紹介でもしようか。まずは俺からだな。先程も軽く挨拶したが、
SpeaDの副司令官兼システム・アナリストの牧村梨来だ。元はLeap.Systemsのシステム
・アナリストだった。SpeaDに入ってもう６年になる」
　どうやら先程の１８０近くの男が牧村梨来というらしい。
「年は２７だったかな」
　梨来の言葉に付け足したのは背中に黒いカバンらしき物をしょった黒い犬である。
「今、ちょっかいを出したあの犬がSpeaDの司令官であり、この部隊の名前の元になった
喋る犬よはんだ。元はSpeaD本部司令官だったんだが、窓ぎわ族になる前にここに逃げて
きた。もう７年になるか？よはん」
「そうだな。５１の時に逃げて来たっておいっ梨来、そういう言い方はないだろう。よは
んは好きでここに来たんだ」
「あのう、よはんさん。その背中にしょっている物は何ですか？」
「こら小僧。よはんじゃなくてよはんだ。わかったか。ふむ、この背中のはＲ‐ＢＯＸと
言ってな、よはんの言わばカバンだ」
「ありがとうございました。よはんさん」
「お前はまだよはんと言うのか。勉強能力の低い小僧だな。よはんだぞよはん！！」
　よはんは完全に切れてしまった。それを梨来が慣れた手つきで首根っこを掴む。
「こらっ梨来、放さんか。上司命令だぞ。おいっ梨来聞いてるのか？」
　何も言わずに喚き散らすよはんを引きずって洗面所に閉じ込めた。
「すまない。よはんは一度切れると他の奴じゃ手に負えないんだ。まあ気にしないで、次
にいこう」
　とは言ったものの、洗面所ではまだよはんが喚いている。
「気にしちゃいますね（笑）」
「（苦笑）さて、次は一番左の彼だな」
　指した先には雪蔵より背の高い黒人の男が立っている。顔には彼の生まれた所を示すよ
うな化粧が施されていて、顔からは雪蔵に近い年のような感じがする。制服は普通のパン
ツを着用しているが、どうも２０以上には見えない。
「彼はここに来てまだ１年半のＴＡＭＡだ。ＴＡＭＡは元銀河系特殊部隊にいた。ここで
は白兵戦対特殊指揮官をしている。なかなか感情が顔に出ないからちょっと不明な事もあ
るけどいい奴だ」
「どうも」と２人は握手を交わしたがやっぱり無表情である。
「次は・・・」
「私はエーシャ・カルナーリ・フェイル・黒崎。ここの作戦参謀よ。元は銀河系第１部隊
にいたの。ここには３年いるわ」
　梨来の言葉を遮って話し始めたエーシャは、黒のロングヘアーで、その髪は肩に掛かる
程度の長さで、女の子にしては背が高く、１７０に手が届くか届かないかの所だ。他の特
徴といえば銀の瞳であろうか。エーシャは地球人とフランザラード人とのハーフであるが
為にこのような瞳を持って生まれたのだ。
「そのエーシャのペットがそこにいる猫のシールだ。よはんと同様喋るけどな。そして最
後、白兵戦指揮官の高野祐太郎だ。祐、お前は今年で何年目だ？」
「２年目だ」
　この祐太郎という人物は、梨来に次ぐ身長でスラッとした体型をしているが、白兵戦指
揮官をしてるくらいの奴である、体力には自信があるみたいだ。黒の短髪が体育会系であ
る事を物語っている。
「祐が元いたのは太陽系第２部隊だ。ここでは唯一の地球人だ。まあこんな所だ。何か質
問はあるかな」
「あのう・・・洗面所・・・まだうるさいようなんですけど・・・ほっておいて大丈夫な
んですか？」
「大丈夫よ。いつもリクに閉じ込められているもの慣れよね慣れ」
「いつもなんですか・・・」
　雪蔵はエーシャの答えに半ば呆れていた。その中にはここでやっていけるだろうかとい
う不安も混じっている。
「あと、ボクの仕事は何でしょうか」
「システム・キーパーだ。主に戦艦のシステム管理とデータ計算。雪の能力なら簡単に出
来る事だ。頑張ってくれよ。・・・あっあと、１５階の全フロアをSpeaDが使っている。
雪は前の部隊でも寮に入っていたよな。もうここへの引越しは済ませたか？」
「はい。昨日、無事に」
　Ｐ．Ｇ．Ｌ本部のビルにはLeap. SystemsやCom. Progriseなど活動拠点が決まってい
る部隊と、彼ら本部直接監視下のSpeaking　Dogが所属し、その各部隊の人数に応じた数
のフロアが与えられる。そしてその与えられたフロアには各部隊の寮が付いていて、希望
者はタダで入れる。しかも必要な家財道具は完備しているという所が素晴らしい。SpeaD
の中では、エーシャとＴＡＭＡと祐太郎が入っている。
　ちなみによはんは郊外に、梨来は２０キロ離れた所でひとり暮らしをしている。
「じゃあ今日はこれで解散。明日は９時にここへ集合」
　梨来の一言でメンバーは解散するが、梨来は洗面所へと向かった。
　そこには、そう。よはんが閉じ込められている。
「よはん。起きてるか？」
　洗面所の鍵を開け、中で横たわっているよはんに声をかけた。
「・・・・こらっ上司命令だぞ梨来・・・」
　どうやら疲れきって寝ているらしい。そんなよはんを梨来は先程と同じように引きずっ
て仮眠室へと連れて行った。
「このぐうたらおやじは何回人に迷惑をかければ気が済むんだ。ったくぅ。また犬のくせ
して体重多いし、どうにかなんないのかよ」
　よはんは身長２ヤード（１８０ｃｍ）で体重が３７５オンス（１００ｋｇ）もあるとい
う変わった犬なのだが、それを簡単に引きずって行ける梨来もかなりの変わり者である。
「よしっこれでいいな」
　薄手の毛布をよはんに掛け、梨来は指令部から出た。

　　　２

　翌日、梨来の指示通りに１名（？）を除き、指令部に集合した。そしてそのまま、地下
５階にあるドッグへと足を運ぶ。
　地下５階のドッグにはSpeaDの戦闘艦Ａｒｋが大勢の人の手により、整備・管理されて
いる。
「ゴンさん調子はどうだい？」
「おっ梨来か。どうしたぞろぞろと・・・おや新入りか？」
　梨来が声をかけたゴンさんなる人は、この戦闘艦Ａｒｋを整備している整備員の頭で、
ここのドッグにおいてのお偉いさんである。本名はトシ・カラルナ・権田という。背は小
柄で横に広いごく普通の中年おやじで、指先はオイルなどで黒ずみ、手のひらは職人の手
のようにゴツゴツしている。
「あぁ。昨日入って来た芙蓉雪蔵くんだよ。雪、この人はＡｒｋの整備員のゴンさんだ」
「はじめまして。芙蓉です」
「トシ・カラルナ・権田だ。よろしく。こいつらは俺のことをゴンさんと呼んでるがな」
「ゴンさん。中に入っても構わないか？」
「あぁどうぞ」
　ゴンさんに許可をもらった一行は、Ａｒｋ内へ・・・。
「ここがブリッジだ。ほとんど・・・コンピューターが動かしているから難しいことはな
い。で、雪の席はそこだ」
　雪蔵の席は様々なコンピューターが内蔵されている。以前は梨来も使用していたもので
ある。
「あっこれはルプア製じゃないですか。あっこっちも。すご───い」
　雪蔵の目は水を得た魚のように生き生きとし始めた。その引き金になったのは、戦闘艦
Ａｒｋに内蔵されているルプア製のコンピューター類であった。このルプアという会社の
製品は、一般企業や学校、そして家庭などでも一部使われているが、使用度は低く、特定
の人にしか使用されていない。しかし、一般で人気の高いＯＦＤやＨＡＬよりも性能がす
ぐれている為にこういう場所に多く使用されている。そのためか他社より価格は高い。こ
のＡｒｋにかかっているコンピューター類だけで（全てルプア製）何十億と言われている。
「雪蔵、お前のコンピューターはどこのなんだ？」
「ボクのはＨＡＬ製です。ルプアは高くて・・・」
「ルプア物は触った事はない・・・って事だろう。梨来、こんなので大丈夫かよ」
「祐、心配するな。俺がどこの部隊にいたか知ってて言うのか？ＣＰとＬＳのメインはＨ
ＡＬなんだ。その事は百も承知。・・・ちょっと待ってろ」
　梨来は何か取りに行った。そして持って来たものを祐太郎と雪蔵の目の前に差し出した。
大きな箱だ。その箱には大きなさかさまのリンゴのマークにルプア・パワー・ノートＰＢ
Ｎ１００Ｇと書いてある。
「あっこれルプアのパワー・ノートＰＢＮ１００Ｇじゃないですか。えっどうしてこんな
ものを・・・」
「オレのより凄いぞ１００ＧＢじゃないか」
「SpeaDからのプレゼントだ。もちろんSpeaDの経費で買ったものだから心配はいらない。
その中にはもうSpeaDに必要なデータはインストールしてある。わからない事があったら
俺に聞いてくれよ。それと同じもん持ってるから。まあ祐に聞いてもらってもいい」
「ありがとうございます」
　雪蔵はそのパワー・ノートをしっかりと抱いて頭を下げた。
「さて、そろそろ戻るか」
　5人＋１は１５階のメインルームへと戻って行く為にエレベーターに乗り込んだ。
　チンッ。
　１５階到着。
「あっいい匂いね」
「マスター、バターのようですね」
　一番目にエーシャとシールが降りた。その後をＴＡＭＡ、祐太郎、雪蔵、そして梨来が
降りた。
「うまそうな匂いだな。どこから匂うのか」
　ＴＡＭＡはやっぱり表情は変えない。でも言動から喜びが感じ取れる。
「メインルームからだな。よはんが来たのか？」
「ボクお腹すいちゃいました」
　祐太郎と雪蔵もうれしそうだ。そんなメンバーのうち、よろしくない顔をしたのが１人
・・・梨来だ。
「梨来さん、どうしたんです？」
「・・・っいや。あっ先に戻っててくれないか、用事を思い出した」
　梨来はメンバーと反対の方へと歩いて行ってしまった。
「どうしたんでしょう、牧村さん」
「さぁ。みんな、早く戻るわよ」
　梨来を置いてメインルームの扉を開く。すると目の前のテーブルに人数分の食事が用意
されていた。
「あらめずらしいこと。なにかあったのかしら老犬(おじい)さん」
「何だと。この小娘が」
「また始まったぜ。それよりよはん、これ何だよ」
「あぁ、これはマンドラゴラのばたぁ炒めだ」
「マンドラゴラ？」
　エーシャたちは声をそろえて言った。その言葉によはんは誇らしげに答える。
「マンドラゴラはな、ゴルゴダの丘に咲く花の根でな、人の形をしている。どこの星にも
ゴルゴダの丘はあるが、地球産のが一番うまいんだ」
　もう少しくわしく話すと、花はすずらんに似ているが、土に埋まっている部分が人の形
をしている。これを抜く時に悲鳴を聞くと死んでしまうという言い伝えがある。もっと知
りたい人は黒魔術の本を読む事をオススメする。
「あれっ？梨来はどうした」
「何か急用がるとか・・・」
『ははぁーん。あいつ逃げたな。おぼえておけよ梨来』
　よはんは１人にたにたと笑っている。何とも奇妙な笑いである。
「よはんさん怖い・・・」
「さあ、遠慮しないでたくさん食べてくれい。さあさあ」
「いっただきまーす」
　メンバーはまず一口だけ食べてみた。
「・・・・」
　だが反応なし。ようやく口を開いた祐太郎は・・・。
「まっず──────っ。何だこれっ。こんなものよく食うな」
「まずいですぅ。もしかして梨来さん知ってたんじゃないですか？」
「そうよきっと」
「みんな何を言い出すんだ。こんなにおいしいマンドラゴラのばたぁ炒めを・・・」
「それは老犬(ジジイ)が食べるものだよ」
　何やら言い合っていると１５階SpeaDフロアの警報機が鳴り出した。