『緊急指令、緊急指令、惑星ユエより当方１０００万ｋｍ先、魚型宇宙船紀文コメニウス
号確認。Speaking　Dogは直ちに出航せよ。くり返す、惑星ユエより・・・』
「とうとう来たか紀文（コメニウス）。さて、行くかな」
　祐太郎は箸を置いて立ち上がる。それに続いて雪蔵が立つ。メンバーは素早く準備して
地下５階のドッグに降りていく。
「梨来はもう中にいるぞ。気を付けてな」
　ゴンさんに肩を叩かれ、気合を入れ、乗り込むよはんたち。
「梨来っさっきはよくも逃げたな」
　祐太郎は梨来の頭を軽く叩く。
「・・・っいや・・・まあ。まずいもんは食いたくなかったからな」
『梨来っ言われたようにセットしておいたぞ。それでは健闘を祈る』
「ありがとう。ゴンさん。雪、今日だけＨＡＬのシステムになっているから出来るだろう。
それではよろしく」
「はい。Ａｒｋ始動システムＯＮ。始動まであと５分」
「Ａｒｋサブ・ドッグ待機」
　よはんたちの乗った戦闘艦Ａｒｋはサブ・ドッグに移動し、地下５階から地下１階へと
上がって行く。
「クリスタル・バリア射出準備完了。Ａｒｋ始動システム完了しました」
『海上排水完了、ゲート開きます』
　ドッグアナウンスと共にＡｒｋの始動エンジンは点火準備される。
「クリスタル・バリア発射、カウントダウン・・・３・２・１」
「Ａｒｋ発進！！」
　雪蔵のカウントダウンに合わせてよはんが発進を告げる。すると巨大な戦闘艦Ａｒｋが
大気圏に向かい離陸した。
　Ａｒｋは大気圏の手前でクリスタル・バリアを弾き、無事宇宙へと出発した。
　１つ言い忘れたが、クリスタル・バリアは、大気圏突入時の圧縮衝撃波をなくす事が出
来る。クリスタル・バリア自体は透明な塊だが、それを最小限のプラズマを発生させたＡ
ｒｋの船首で弾く事により、特殊なバリアになるのだが、何故そのような効果が出るのか
は全くの秘密になっている。
「Ａｒｋ安定圏通過。低速度維持」
　雪蔵の初フライトは無事に始められた。
「なぁ梨来。ちょっと」
「ん？どうした祐」
　近づいて来た梨来に祐太郎はそっと耳打ちをする。
「さっきさ、『まずいもんは食いたくなかったからな』って言ってたけど、どっかで食っ
たか？」
「あぁ。昔はよくつくってたんだ。昨日みたいに切れた次の日は仕返しとして・・。で、
あの臭いだけでもうマンドラゴラだってわかるくらい食ったぞ。・・・だからもう今日は
ゴメンって感じ・・・」
「確かにな。あんなものはもうこりごりだよ」
「だろ。でもあれはよはんの大好物なんだよ」
「そうなんですか？」
「あっシール。もしかしてお前も・・・」
「はい一応は」
　祐太郎の席でまだひそひそ話を続ける３人・・・。それを遠くで聞き耳を立てているよ
はん。
「お前ら、また食べたいか？」
「あっいや、いいです」
「前方、１１時方向に紀文コメニウス号らしき宇宙船を確認。識別コード確認します」
　祐太郎たちの会話の間に敵船は発見された。
「識別コード一致。紀文コメニウス号です」
「ようやく捕らえられるな紀文。結構長かったな」
　今、SpeaDが追っている魚型宇宙船紀文コメニウス号とは、惑星紀文の住人である人足
魚類が乗っている。そのコメニウス号は、２ヶ月前、ユエ付近の小惑星を破壊し、その住
人を一人残らず殺した為に指名手配となっていたのだ。他にも無許可で飛行したり、たま
に海賊みたいな行為をしていたりする。今までは銀河系の部隊の管轄だったが、なかなか
捕らえられなかった為に今回、SpeaDが出動する事になったのだ。
「リク、本部から通信が来てるけどどうする？」
「とりあえずつなげてくれ」
「了解」
　エーシャが回線をつなぐとメインスクリーンにSpeaDの本部司令官の姿が映る。その姿
から見るとよはんよりも年上のようである。
『久し振りだな梨来。どうだ調子は』
「親父、いつの間にSpeaDの本部司令官になったんだよ」
『そんなもんにはなってない。この事件を扱っていたのが俺だっただけだ』
　どうやら今、スクリーンに出ている人は、本部司令官ではなく、銀河系司令官をしてい
る梨来の父親のようだ。
「で、何の用なんだよ」
『紀文コメニウス号を攻撃する事だけはやめろ。そういう事はこちらでする。いいか梨来、
捕獲してくるだけだぞ』
「ああそうかい。俺たちはあんたのロボットかよ。やってらんねーよ。だったら自分でれ
よ」
『おい梨来。その態度は何なんだ。それが上司に対する態度なのか』
「いや。親父だけだ。じゃあな」
　梨来はメインスクリーンを切るようにエーシャに合図する。それを受けて、エーシャは
切る。
『りっ梨来・・・』
「カルナーリ。作戦参謀の君に聞きたい。どう攻めるとよいかな」
「まあラッシュ・ポットを射出しての白兵戦は無理ね。紀文は船内に水が張ってあるから
突入した時に水が漏れる可能性があるわ。そうすると・・・」
「SpeaD-Wingで乗り入れる」
「そう。それが一番妥当ね」
「そうなるとオレとＴＡＭＡの出番か」
「祐太郎、指揮はお前に任せる、梨来と雪蔵はデータ計算を。カルナーリは作戦指示を頼
む。よはんは祐太郎とＴＡＭＡについて行く」
「了解」
　メンバーは自分の持ち場につく。よはんら３人は、メインブリッジからＡｒｋ内のドッ
グへと向かう。そこにはSpeaD-Wingが２機置いてある。１機は４人用で、もう１機は２
人用になっている。船尾に近い所に主翼が左右対称で１つずつ、上下に補助主翼が１つず
つ付いた、Ａｒｋに程近い色の戦闘機である。
「雪蔵、ゲートを開いてくれ」
「ゲート・オープン」
「SpeaD-Wing初号機発進」
　SpeaD-Wingは紀文コメニウス号に向けて発進した。
　その間、敵艦のコメニウス号は・・・。
「船長、SpeaDが現れました！！こちらに向かって来ているのはSpeaD-Wingです」
「くそ──────。SpeaDかぁ、参ったぞ。逃げても無駄だな。よし、射撃用意」
「ニウス・ビーム完了」
「発射！！」
　コメニウス号の船首である口から光り輝く細長い光が発射された。
「敵艦からの高熱反応あり。こちらに向かってます」
「エーシャ。シャイニング・シールドを」
「ＯＫ。シャイニング・シールドＯＮ」
　Ａｒｋを眩しい光が包み込んだかと思うと、コメニウス号から発射されたニウス・ビー
ムはＡｒｋに当たる事なく散った。
「やはりニウス・ビームでは駄目か・・・あぁっ何だ？」
　コメニウス号の機体が大きく揺れた。SpeaD-Wingが機体に張り付いたのだ。
「合体完了。パスワード検索を頼む」
　祐太郎はコメニウス号の扉にパスワード付きの扉を開くための機械、Ｒ‐ＣＯＭ２５１
０の端末を差し込んだ。もちろんルプア製である。
『祐。船内は水が張ってある。そのままで待っててくれ。紀文のメインシステムをハッキ
ングして排水プログラムにアクセスしてみる』
「どのくらいかかる？」
『５分。いや、３分だ』
「了解」
　祐太郎の耳型トランシーバーには、Ａｒｋ内でハッキングしているらしいキーボードを
叩く音がする。
『排水プログラム起動。排水完了』
　ちょうど３分で終了させた。凄い速さだ。
「ＴＡＭＡ、よはん突入するぞ」
「ＯＫ」
「よいぞ」
　祐太郎の持っているＲ‐ＣＯＭ２５１０の実行キーを押す。すると検索したパスワード
との照合が行なわれる。
「楽勝だな。よし、入るぞ」
　コメニウス号の横腹の扉からよはんら３人は突入した。コメニウス号の中は排水したば
かりで、少し水で濡れている。
　排水された事でコメニウス側も武器を持ち、よはんら３人を探す。
「ここは二手に別れよう。じゃあメインブリッジで」
　祐太郎は左側に、よはんとＴＡＭＡは右側へ走って行く。
『ユウタロウ。目の前の扉に３人。左側通路に６人いるわ。気を付けて』
「了解。さて、ここは麻酔銃で・・・」
　麻酔銃をしっかりと構え、左側通路から死角になるように壁際に立ち、敵が来るのを待
つ。すると目の前の扉が開き、敵が３人現れた。その３人を軽く撃つと、奇妙な音に気付
いた６人は走ってこちらに向かってくる。
　ドサドサッ。
　敵は次々と倒れ、山積みになっている。それは、敵が顔を見せた瞬間に祐太郎が自分の
長い足をちょいっと出した。それに引っかかって今の状態になったのである。それにして
もマヌケな姿だ。
「ごくろうさんっ」
　起きられずにもがいている敵に麻酔銃を打ち込む。それから動かない事を確認すると、
先に進んだ。
　一方ＴＡＭＡとよはんは、順調に進んでいく。が、目の前に扉が現れた。しかも先に進
む為にはパスワードが必要なようだ。
『タマッその扉のロックにはＲ‐ＣＯＭを差し込まないで。その扉にはトリックが仕掛け
てある』
「トリック？」
『そう。さっきリクがアクセスした排水プログラムにつながっているわ。無理に開けると
放水プログラムが起動するようになっているの』
「じゃあどうすればいい。ここにしか扉はないんだぞ」
『確かにここからメインブリッジにつながっている。でも・・・』
　エーシャはその先の言葉が見つからないのか黙り込んでしまった。
「牧村はどう思う」
『エーシャの言う通り、プログラムが起動するシステムだ。でも解除パスワードさえ合え
ば起動しない。でもそれを探すのには時間がかかる。手っ取り早い手段としては、中から
開けさせるっていうのだな。中からだとプログラムは起動しない』
「騒げばよいという事だな」
『よはんの考えもいいんだが・・・よはんのＲ‐ＢＯＸの中にある幻覚ガスを流し込んで、
その扉の両脇でロープを持って立つ。敵が出てきたらそれをピンと張る。すると・・・』
「全員倒れるか・・・」
『そうだ。一度やってみてくれ』
「了解」
　ＴＡＭＡとよはんはロープを用意し、幻覚ガスを扉の向こうに流し、敵がやって来るの
を待つ。向こうでは幻覚ガスが作用し始めている。
「SpeaDの白兵部隊が扉の向こうにいますぅ！！」
「突撃せよ！！」
「了解」
　敵側は、完全武装をして走ってくる。それがよはんの耳に届く。
「ＴＡＭＡ、来たぞ・・・あと５ｍ。・・・よしっ引け！！」
　ドサドサドサッ。
　ざっと８人ぐらいだろうか。本当にマヌケな姿で転がっている。
「古典的作戦成功。よはん小槌で叩いとけ」
「そうだな。よいっ」
　よはんはＲ‐ＢＯＸから出した小槌で叩いていく。その身のこなしは華麗だ。あの体重
からはとても考えられない。
「ＯＫだな、よはん、行くぞ」
　ＴＡＭＡは麻酔銃を、よはんは小槌をしっかりと構えて、軽やかな足取りで走って行く。
それに感づいた敵は次々と姿を現す。しかし、ＴＡＭＡやよはんにはたいした敵ではなか
った。
『ＴＡＭＡ、聞こえるか？』
「何だ。高野か」
『メインブリッジ前に着いた。そっちは今、何処にいる？』
「もう少しで着く。あっ見えたぞ」
『そこの扉もパスワードが必要か？』
「そのようだ」
『じゃあ聞いてくれ。この作戦を失敗するともう奴らは捕まらない。いいな』
「了解」
『メインにつながっている４つの扉のうち、オレたちの着いた扉には２つの扉を一緒に開
けないと船首が分離して、船首以外は崩壊するシステムが始動するようになっている。さ
っき梨来と雪蔵に調べてもらったパスワードがある。それを送るから端末を差し込んで待
っていてくれ』
「了解」
　端末を差し込むと、Ａｒｋからパスワードが送られてくる。
「パスワード完了」
『じゃあ行くぞ。３・２・１』
　ポチッ
　Ｒ‐ＣＯＭ２５１０の液晶に表示されていた１０桁の数字が次々と読み込まれていく。
それには約１分程の時間を要する。
　─Open　The　GATE─
　そう液晶に表示されると３人はそれぞれの扉から進入する。
「おとなしく手を上げな」
　メインブリッジにいた船員を取り囲んで銃を向ける。
「ほうほう。いい子ちゃんたちがいっぱいだなぁ。でも一応眠っててもらわないとね。祐
太郎、ＴＡＭＡ、よろしく」
　よはんの指令で祐太郎とＴＡＭＡは顔にガスマスクをつけてよはんのＲ‐ＢＯＸから取
り出した催眠ガスを撒いた。
　煙がおさまると、ガスマスクを取って眠っている事を確認する。
　と、横に人足魚類でないものが転がっている。真っ黒で変な物をしょっている・・・よ
はんだ。
「よはんの奴ガスマスクをつけるの忘れたな」
「本当にバカな奴・・・っとＡｒｋに連絡だな。・・・こちら祐太郎、敵捕獲完了。どう
したらいい？」
『よはんを置いて、SpeaD-Wingの捕獲ネットで引っ張って来てくれ。そのままユエに向
かう。』
「よはんはここで倒れているがそれでもいいか？」
『まあいい。それじゃあ祐、頼む』
「了解」
　祐太郎とＴＡＭＡはSpeaD-Wingに乗り込む。そしてコメニウス号の機体から離れて捕
獲ネットを張った。その様は網にかかったタイのようでやはりマヌケだ。
「マヌケだな・・・」

　SpeaD-Wingに引っ張られた紀文と共に、ユエに着いたよはんたち。海上でコメニウス
号を切り離し、海中に沈め、SpeaD-WingはＡｒｋ内のドッグに戻る。ＡｒｋがＰ．Ｇ．
Ｌ本部に近づくと、海水がなくなり、大きなレールが出てくる。Ａｒｋはそのレールに降
り、ゆっくりと前進し、サブ・ドッグに入る。入った後は地下５階のドッグへ。その間、
方向転換され、エンジンも止まり、ゴンさんの待つドッグに戻る。
「みんなお疲れさん。ゆっくり休め」
「ありがとう、ゴンさん」
「おっ梨来、システムはあれでよかったかな」
「助かったよゴンさん。無理言って悪かった。ルプアのシステムに戻しておいてくれよ。
じゃあお疲れさま」
　軽く手を上げるとメンバーのいる方へ走って行った。
　一方コメニウス船内。
　よはんは祐太郎とＴＡＭＡが連れて行った為、今はいない。残りの船員は未だ眠ったま
まである。
　水中に投げ込まれた紀文コメニウス号は、本部の人の手で回収され、船員は逮捕された。
とりあえずこの件に関しては一件落着という事で雪蔵の初仕事は無事に終えられた。
「雪蔵、どうだった？今回の感想は」
「大変でした。祐太郎さんたちみたいにこの仕事に誇りを持てるようにしたいと思いまし
た。梨来さんのキーボードさばきも凄かったし」
「まあ慣れてくるから大丈夫よ。ねっシリィ」
「マスターの言う通りです」
「でもルプアのシステムで動かせんと駄目だな」
　よはんの一言に落ち込んでしまう雪蔵。そこですかさず梨来がフォローする。
「雪ならすぐ使えるようになるから心配するな。ＰＧ１００もあるしな」
「そうですよね」
　先程とは対称的に前向きになる雪蔵。何だかよくわからない性格をしている。
「さて、今日の仕事も済んだし帰るか。って言ってもすぐそこだけどな」
「惑星紀文への報告は？どうするの？」
「上からの報告書が来なといけないから当分はいい」
「それにしてもリクのお父さんがＰ．Ｇ．Ｌのお偉いさんだったとは知らなかったわ」
「牧村さん。コネですか？」
「違う。何であんなくそ親父の後をついて行かなきゃならない」
「何故親父の事になるとそうカリカリするんだ？」
「別にいいだろ。嫌いなものは嫌い。それだけだ」
　梨来がこれ程までに父親が嫌いになったのにはちゃんとした理由がある。まあおいおい
ここで話す事にしよう。
「今日はここで解散」
　よはんの号令でメンバーはメインルームから出て行く。
　明日から待ちに待った休日である。
　新しい仕事、新しい仲間、色々学ぶ事はあるが、今日の仕事をバネにして雪蔵は大きく
なっていくのだろう。