Ｐ．Ｇ．Ｌ本部一五階Speaking　Dog指令部────。
　警報機が鳴っている時とよはんとシールが喧嘩している時以外はほとんど静かな廊下を
梨来と海咲が歩いていた。
「おっす」
「あっおはよう、リク。結構時間がかかったじゃない。あらっ？ミサキちゃん？大きくな
ったわね」
「海咲、挨拶は？」
「エーちゃん、こんにちは」
「おっす梨来、よはんはまだ・・・あっ海咲だ。元気だったか？」
「ゆーたにいちゃんこんにちは♪」
　祐太郎は海咲をよいしょと抱き上げる。それには海咲も喜んでいる。
「雪とＴＡＭＡは？」
「二人ならあそこ。さっき起きて来たばかりでまだ意識がないけど」
　メインルームの右側にある談話スペースに二人はいた。まだ起きて来たばかりという事
でエーシャの入れたお茶を飲んで目を覚ましていた。
「ＴＡＭＡ、雪、おはよう」
「おうっ」
「おはようございます」
「海咲が来てるぞ」
　梨来の後ろからは海咲と手を繋いだ祐太郎がついて来ていた。そんな祐太郎の言葉にＴ
ＡＭＡと雪蔵は座ったまま振り返った。その時であった。祐太郎の手を振り払い、海咲は
「パパ！！」と雪蔵に駆け寄り、抱きついた。
「パパ？雪蔵が？」
　海咲の行動に驚く事しか出来ない祐太郎とＴＡＭＡは、二人顔を見合わせて首を傾げて
いる。それに対し、パパと呼ばれた雪蔵は、呆気にとられたままとりあえず海咲の頭を撫
でた。
　それを見た梨来は何かに気付き、微笑んだ。
「海咲、よく見てごらん。凌さん（パパ）じゃないだろ」
「ん？・・・・？パパじゃないの？そうなの？」
「雪、立ってやってくれ」
　そう梨来に言われて訳もわからず立った雪蔵の姿に海咲は凌でない事を悟った。
「パパじゃない。ちがうひと」
「はじめまして、海咲ちゃん。芙蓉雪蔵です」
「ふよゆきぞ？ゆ・・・ゆきっ！！ゆきくんこんにちは」
「梨来さん海咲ちゃんは誰の子なんでか？まさか・・・」
「雪、何を考えてるんだ？海咲は俺の姉貴の子だよ。姉貴夫婦が旅行の間預かってるんだ」
「海咲、雪蔵がそんなにパパに似てるのか？」
　凌の顔を見た事のない祐太郎たちは雪蔵に似ている事に疑問を持ったらしく海咲に問う。
「うんっ」
「なあ梨来、その凌って言うお前の義兄は本当にこいつに似てるのかよ」
　海咲では本当に納得いかないのか梨来にも真相を聞き始めた祐太郎。仕方がないなと梨
来の手帳に入っている四人で撮った写真を見せた。するとどうだろう。雪蔵と瓜二つの男
が写っているではないか。しかも雪蔵みたいな顔をして梨来よりも背が高いのである。
「うわっ本当にそっくりじゃん。こんな事あっていいのかよ」
「まさに瓜二つね」
「牧村は気付いてたのか？」
「いや、今海咲が飛びついていって気が付いた。そうか凌さんか」
　海咲の登場で何時もとは違う雰囲気になった指令部。しかしそこにはまだ奴の姿はない。
「よはんの奴遅いな」
「どうしたんだ？祐、よはんに連絡したのか？」
「それは私がしたわ。携帯にちゃんと出たのにおかしいわ」
　よはんの遅刻なんて日常茶飯事なのだが、あまりの遅さにメンバーは心配し始める。そ
んな心配をよそによはんは何時もと同じ調子でメインルームに入って来た。
「おはよう、おはよう。よっ皆さんお揃いで。おっ？梨来の姪っ子じゃないか」
　遅刻したのに謝罪の言葉はないのかよと呆れる祐太郎たち、そんな事も気にせず、完全
に海咲の方に興味がいっている。
「わんこさんこんにちは」
「この子が凌の子供だなんて信じられないな。雪蔵みたいな奴からこんな可愛い娘が出来
るなんてな」
「よはん、海咲の父親と雪蔵が似てるっていつ判ったんだ」
「凌と雪蔵が似てるなんてこいつと会った時から気付いてたぞ。そんな事より何で大切な
休日に出動要請が出たんだ？」
　そうだった。海咲に気を取られてすっかり休日出勤させられた事を全員が忘れていた。
こんな日に出動要請が出るくらいだ、相当深刻な事件なんだろう。
「最近、高額な貨物を積んだ輸送船が海賊に襲われる事件は知ってるわよね。それを他の
部隊が追ってたらしいんだけど・・・」
「そいつらには捕まえられなかった」
「つまりそう事。被害が大きくならないうちにSpeaDに捕まえてもらおうと仕事が来たわ
け」
「海賊なんて今頃はやらない事する奴がいるもんなんですね」
「明るみに出ないだけで被害は凄く多いんだ」
　そんなもんですか？と雪蔵は首を傾げてしまった。
「さあ、行くとするか。全員準備はいいな」
　梨来を先頭に地下五階のドックへと向かう。そこにも休日出勤させられたゴンさんたち
整備士がいた。
「休日出動ご苦労様。あれ？海咲も連れて行くのか？」
「あぁ。姉貴がいないからさ。ゴンさん、何時ものようにルピュを頼むよ。じゃあ行って
くるよ」
　そういい残してSpeaDメンバーは宇宙へと旅立って行った。
「で、一体海賊はどんな奴なんだ？」
「それがわからないのよ」
「わからない？」
「誰もが瞬きしている間に積み荷を持ち去るからその姿は誰も見た事ないらしいの」
「そんな奴をオレらに捕まえて欲しいって言うのかよ」
　本来なら無理な仕事であるのだが、彼らSpeaDならそんな事は関係ないと思われている
らしく、情報も十分に与えらえないうちに仕事をさせられている事が多い。それもそのは
ず、今回の獲物はSpeaDが仕掛けるわけでもなく自ら姿を現したのである。
　新型Ａｒｋが宇宙を航行しているちょうどその後ろを不思議な形をした宇宙船がＡｒｋ
を追いかける形で航行していた。
「後方数ｋｍ先、不信な宇宙船発見。識別コード確認します」
「ちょっと待ってくれ、もしかして・・・・」
　雪蔵が識別コードを確認しようとした瞬間、何か気付いた梨来が止めるよう指示する。
そして祐太郎と目を合わし、何か目で確認をした。
「リク、通信が入って来てるけど・・・。どうする？繋げる？」
「あぁ頼む」
　と、エーシャが回線を切り替えるとメインスクリーンには猫の耳が生えた人間の姿が映
し出された。
『久し振りだな、梨来。こんな所で会うなんて思わなかったな』
「それはこっちのセリフだ。もしかして今回の騒動の発端はお前だったりしてな。猫目珠
梨」
『どうだろうな。俺は海賊だから名が挙がっててもおかしくはないがな』
　そうなのである。この猫目珠梨という奴は自称銀河系一の宇宙海賊キャラット団の長を
している二四歳の若造なのである。
　珠梨の生まれは、銀河系第五惑星シーバで、アメリカン・ショートヘアーとスコティッ
シュホールドの親を持つハーフである。ちなみにシーバ人は、誰もが猫の姿をしており、
種別も普通の猫と変わらない。違いを挙げれば、人間をベースにしているというところで
ある。
　しかし何故、宇宙海賊の珠梨と梨来が知り合いなのか。梨来だけではない祐太郎とよは
んも知っているようだ。
『あの時お前らにやられて以来、傷ついた身体を修復するのに時間がかかった。そのお陰
でこんな姿になったんだ』
「右手を義手にしたのか？その目も」
『あぁそうだ。お前ら三人に復讐する為に』
「そんな事無理だぜ、オレがここにいるからな」
　梨来と珠梨のやり取りを聞いていた祐太郎が横から口を挟む。
『まあ近いうちに復讐しにやって来るからな覚えておけ』
　そう言い残した珠梨は、回線を切ったと同時に宇宙船ごと消えた。
「ねぇリク、あの珠梨って言う奴はどんな関係があるの？」
「俺も見た事ないが」
　珠梨と梨来たちが出会った理由はというと、ちょうど祐太郎が入隊したばかりという事
で白兵戦指揮官になる為とは名ばかりの特別訓練の時である。よはんと梨来は司令官と副
司令官であった為に祐太郎の引率者として宇宙に出ていたのだ。その時たまたま近くを通
り過ぎようとしていた珠梨の宇宙船が祐太郎たちの宇宙船を一般輸送船と間違い盗みに入
ったのである。
　しかし、そこはベテラン二名を乗せた宇宙警察の船。祐太郎もそこそこの力があり、そ
うとくれば白兵戦の実践を開始するしかない。
　当時、白兵能力の低かった珠梨は三人がかりの攻撃に撃沈したのである。Ｐ．Ｇ．Ｌ本
部に運ばれる間、共に生活したので知り合いになってしまったのであるのだが、その時珠
梨は、毎日のように梨来に説教されたせいか、梨来と面と向かって話すのは怖いという認
識がついたらしい。だからさっきのような口の聞き方も面と向かっては言えないのである。
そしてよはんは犬だから大嫌い、祐太郎は年齢が同じという事でタメと認識され、どんな
事にも対抗心を燃やしている。
「しかしまぁあんな所で珠梨の野郎に会うなんて思わなかったな」
「そうだな。祐の訓練の時に会ったままだったからな」
「梨来さん、その珠梨って言う人が犯人じゃないんですか？」
「・・・そうとも言えるんだが・・・」
　雪蔵の問いに言葉を詰まらせる梨来。
　と、その時、Ａｒｋの警報が鳴り始め、メインスクリーンと梨来のシステムデスクのク
リアスクリーンに膨大な情報が流れ始めていた。
「何だこれは」
「エーシャ、Ａｒｋの状況確認してくれ、雪は不信な宇宙船がいないか調べてくれ」
「了解」
　突然の出来事に戸惑う事もなく、冷静に対処するSpeaDのメンバー。その時よはんは何
時ものようにだれていたのだが、そんな事はお構いなしに仕事を進める。
「リク、Ａｒｋは異常なし。何も問題はないわ」
「そうか、雪の方はどうだ？」
「前方１０００００ｋｍ先で不信な高熱反応あり、対象の識別コードが認識不可能です」
「海賊が出たのか？」
「そうとは言えないだろうな。なっ牧村」
　海賊はわざわざ自分の居場所を教えるような事はしない。そんな事をしていて海賊は務
まらない。それを確認するように梨来に同意を求める。
「対象は一つだけではないみたいです」
「雪蔵、どういう事だ？対象が一つだけじゃないって」
「少しずれた所から危険信号が微かですが察知したんですよ」
「俺の所で調査中だ。よはん、どうする？」
「一応近づいてみたらどうだ」
　相変わらずの真剣みのないよはんの答えに少しばかり呆れながらも、こういう時のよは
んの方が冴えているのではと考えた梨来は、よはんの言う通りに対象へと近づいたのであ
る。
　対象に気付かれないようにと最低の速さで果てしなく続く宇宙を進んでいた。
「何だあれは。宇宙船と言い難い変てこな形をしているぞ」
　メインスクリーンに映し出される猫の頭の形をした宇宙船。生命反応はあるものの中か
ら危険信号が発信されたまま少しも動く気配がない。
「識別コードは？」
「識別コードＭ６６３９０Ｋ１５６６、銀河系第五惑星シーバ所属、三毛猫号です」
「三毛猫号・・・！！」
　三毛猫号、その言葉に何か覚えがあるのか梨来は一点を見つめたまま何かを考え始めた。
するとその前で祐太郎がポツリと呟いたのである。
「珠梨の宇宙船だ」
　一瞬、Ａｒｋ内に緊張が走る。危険信号を発信したまま沈黙してしまう程被害を受けた
のならこのＡｒｋ自体も危険なのではないかと。普段ならそこまでは考えていないのだが
今回は海咲がいるので海咲中心で物事が動いていくのである。
「不信な気配は全くありません。しかし、依然三毛猫号からの応答はありません」
「ここで珠梨を見捨てるわけにはいかないだろうな。よし、宇宙船を回収しに行こう。オ
レが指揮をとる」
　祐太郎の中にある正義感の塊が働き出したのか、はたまたただの珠梨に対するライバル
意識からか、率先して救出活動に参加する体制を見せた。
「じゃあＴＡＭＡも同行してくれ、被害は小さくはないはずだ。入口をドックと繋ぐよう
にするからＡｒｋに横付けしてくれ。負傷者はＤｒ．クルルのいる医務室に運ぶよう手配
する」
「わかった。じゃあ行って来る」
　祐太郎とＴＡＭＡは、SpeaD-Wingに乗り込み、三毛猫号を引っ張ってＡｒｋに横付け
した。
「外側からは何の異常は感じられなかった。中はどうなっているのか・・・さあ入るぞ」
　祐太郎とＴＡＭＡはＲ‐ＣＯＭを使って中に進入した。簡単な造りの船内は薄暗く、気
温が下がっている。空気はまだ十分あるようだが、念の為にＡｒｋから酸素を送ってもら
った。
「負傷者という負傷者はいないみたいだな」
「高野、あれ見ろよ」
　三毛猫号船内には乗組員が倒れていた。
「みんな気を失っているだけのようだな。珠梨は・・・」
　と目線を三毛猫号の中心に持って行った瞬間、周りとは全く違う状態で倒れている珠梨
を見つけた。
「珠梨！！」
　祐太郎は血まみれになって倒れていた珠梨を抱き起こすと顔を叩いて意識の確認をした。
しかし、多量の出血の為に意識不明の重体であった。
「これは大変だ。ＴＡＭＡ、そこの通信回線使えるか？」
「わからん。・・・おっ何とか動いたぞ。牧村に繋げばいいか？」
「あぁ頼む」
　ＴＡＭＡは通信回線をＡｒｋに繋ぎ、Ａｒｋにいる梨来からの返答を待った。
『祐にＴＡＭＡ、どうした？』
「繋がったぞ」
「今、珠梨を発見した。が、相当の傷を負っている。意識がない。至急Ｄｒ．クルルの所
に運ぶ」
『了解』
　後の乗組員をＴＡＭＡに任せて、祐太郎はＡｒｋの３層にあるクルルの医務室へと珠梨
を運んだ。
「Ｄｒ．急患だ」
「あぁ、さっき梨来から連絡が入りました。そこの診察台に寝かせてくれますか？」
　ふわふわと浮いて医療機器を運んで来たクルル。その姿をただ祐太郎は見つめている事
しか出来なかった。
「これはまずいですね。右手を失っているからかなりの出血ですよ。祐太郎、彼をそこに
運んでください。赤いボタンを押すと扉が開くようになっていますから」
「わかった」
　クルルが指した方向にはカプセルの形をした水槽みたいなものがあった。生命維持装置
のようである。そこの操作パネルにある大きな赤いボタン。そこを押すと上に扉が開いた。
「中に入れればいいんだな」
「そうです」
　祐太郎の後ろからクルルが顔を出し、珠梨に酸素マスクを付け、操作パネルに手を伸ば
す。すると慣れた手つきで機械を操作した。
　生命維持装置が動き出すと、中は特殊な水がいっぱいまで放水された。
「祐太郎、彼の右手は何処にありますか？」
「いや知らない。こいつだけ運んでこないとって連れて来たから」
「今はいいですけど、時間が経ち過ぎると修復できない可能性がありますよ」
「それはこれの事か？」
　タイミングよく入って来たＴＡＭＡの右手にはロボットにでもくっ付いていたような手
が握られていた。
「多分それだ。あっ他の奴は？」
「意識を回復した奴から事情を聞いてすぐ星に帰した。隊長は怪我が治り次第連れて行く
と言ってな」
　珠梨の右手をクルルに預け、祐太郎とＴＡＭＡは梨来たちの待つ、メインブリッジに戻
った。
「おっお疲れ。珠梨の様子はどうだ？」
「あぁＤｒ．が何とかしてくれるようだ。手術が済んだら連絡が入る事になっている」
「で、一体何が起きていたんだ？あの船で」
　何時もより司令官らしいのかわからないがよはんが事の真相を聞きたがっていた。その
様子を見てシールが梨来の横で立っていた海咲に声をかける。
「海咲、下の部屋で一緒に遊びましょう」
「シーちゃんのお部屋で？うんっ！！」
　「シール、頼む」という梨来の言葉にシールは笑顔で答える。そしてそのまま、二層に
あるエーシャの部屋に海咲と共に降りて行った。
「猫目の右腕である男が言っていたんだが、警報が鳴った時に芙蓉が調べた認識コード確
認不可能の宇宙船があっただろ、その宇宙船が三毛猫号を攻撃したらしいんだ」
「しかし何故珠梨の船を？」
「それはわからない」
「ねぇタマ、その襲って来たっていう奴の正体はわかったの？」
「Dark・Emperor。闇の皇帝。それ以外は何もわからない」
「ダーク・エンペラー・・・」
「どうしたんですか？梨来さん」
　ＴＡＭＡの言葉に何か思い出したのか、梨来は下を向いたまま考え込んでいる。そして
何か思いつくと、自分のシステムデスクのコンソールに手を伸ばし、華麗なる指捌きでDa
rk・Emperorという集団のデータを検索し始めた。
「あったぞ、これだ。闇の最高集団Dark・Emperor。宇宙警察Ｐ．Ｇ．Ｌが設立されたと
同時に闇の権力者が立ち上げた大きな闇会社だ。表社会では認可されていないものを裏ル
ートで密輸し、多額の収入を得ていた会社。本部もそれを解散させようとしていたみたい
だが、出来なかったらしい。しかしそれが一〇年前に解散したと聞いた」
「あっこれ、本部の機密資料じゃないですか。それは総司令官である本部長と本部司令官
をしている幹部しか見る事が出来ない・・・あっ」
「雪、俺の専門職が何か知って言ってるのか？どんな複雑なセキュリティもくぐり抜けら
れるんだぞ」
「解散したはずの組織が何故そんな事するのかしら」
　エーシャが疑問を投げかけたのと同時に今まで黙っていたよはんが深刻な顔をして口を
開いた。
「Dark・Emperorなら解散したのと同時に闇の宇宙支配者として復活した。無意味に星や
宇宙船を狙っては、女であろうが子供であろうが関係なしに一人残らず殺害し、その星を
自分のものにしてしまうという非道な殺戮集団だ。第一期のSpeaDメンバーが奴らと接触
しているが生きて戻って来た奴はいなかった。よはんは本部で司令官をしていたが、これ
ほど胸を痛めた仕事はなかった」
　第一期SpeaDメンバーの命をかけた戦い。それは本部の機密資料か幹部の記憶にしかな
い事実。それは絶対公表してはいけない真実。よはんが語った事件は事実上戦闘艦暴走に
よる不慮の事故として世間に公表された。もちろんメンバーの親族にもそのように説明さ
れた。そうするしかなかった。何とかしようと思って出来るような事ではない。Dark・E
mperorの信じられない力を知っているからこそ何も出来ないのである。
　そのDark・Emperorが珠梨の宇宙船を狙った今、やるべき事は一つである。それは口に
出さなくても同じ事を考えている事は重々承知である。しかし、よはんだけがよろしくな
い顔をしていた。
「お前らくだらん事を考えるでない。Dark・Emperorに立ち向かう事は自ら自害する事と
同じなんだぞ」
「でも、現にこうやって被害が出てるんだ。このまま放っておいたら珠梨みたいな奴が増
えるだけじゃないか」
　正義感だけは人一倍強い祐太郎は、よはんに反発する。そんな言い合いに、一人何やら
考え込んでいた梨来が口を開いた。
「祐の考えは十分すぎる程わかる。人の命を守るのが宇宙警察官の仕事だからな。でもよ
はんの考えも否定出来ない。情報収集も間々ならない俺たちがDark・Emperorに立ち向か
うのは危険すぎる。珠梨のような奴でも死の境を彷徨う程の怪我を負ったんだ。珠梨が無
理なら俺たちにも無理だ。特に今回は海咲もいるからな」
　今回の仕事はやはり海咲中心に動いている。それには誰も反発出来ず、納得せざるをえ
なかった。
「とりあえず、本来の目的に戻りましょう。このまま攻撃してこないなら安全なんだし」
「エーシャの言う通りだ」
　本来の目的。それは高額な貨物を積んだ輸送船が海賊に襲われる事件である。その真相
を探るべく宇宙へと出てきたのである。
「海賊の行動を洗い直すのが先決ですね」
「そうだよなぁ」
「なぁ、牧村。猫目っていう確率は？？」
「あぁ五分だな」
　珠梨に出会うまで自分なりに海賊について細かい情報をチェックしていた。Ｐ．Ｇ．Ｌ
の本部にあるブラックリスト。そこには裏という裏の組織の情報が載っているのである。
もちろん世間に知られていない宇宙海賊もそのリストから弾き出せる。そのリストから巧
妙な手口、盗まれている貨物が決まった額であること。それだけを挙げていけば、ほんの
一握りの候補が挙がる。その中にキャラット団も含まれていた。そこから梨来の頭の中に
はキャラット団の仕業ではないかという答えだったのである。
「珠梨がある程度回復しないと話を聞き出すことも出来ない」
「ちっ回復を待つしかないのかよ」
　祐太郎がつまらなそうな態度で自分の指定席に戻る。
「まだ時間はあるわ。さっき来たばかりなのよ」
　祐太郎に続けてエーシャが自分の指定席に座り、現在の状況を調べ始めた。それぞれが
各自の持ち場に着くと、暗い面持ちのよはんがメインブリッジから出ていった。
「よはんさん最近変ですよね？」
「何時ものことじゃねーか？」
「そうは見えませんけど・・・・」
　『この前の事件以来変なんですよね』とよはんの背中に投げかける。しかし、祐太郎は
何も感じていないようで『放っておけ、放っておけ』と何時ものようにあしらった。
　その間、自分のコンソールの後ろに位置するよはんの席に座って梨来がぼんやりと画面
を眺めていた。
　頭の中を過る様々な考え。高額な貨物を積んだ宇宙船を狙う宇宙海賊。そして珠梨の宇
宙船を狙ったDark・Emperor。何ごとにも注意深い珠梨が自分の力以上の相手にちょっか
いを出す筈がない。無謀な戦いに挑んだところで敗北だけが待っている筈だ。
　いてもたってもいられなくなった梨来は、珠梨のいるメディカルルームに足を運ぶこと
にした。
「ちょっと席を外す。何かあったらメディカルルームに連絡をくれるか？」
「はい、わかりました」
　雪蔵にそっと言付けると足早に目的地であるメディカルルームに向かう。
「梨来の奴どうしたんだ？？」
「ミサキちゃんのところじゃないの？」
　梨来の行き先を聞いていない祐太郎とエーシャは今まで存在を忘れていた海咲のところ
だとわいわいいいはじめたが、そこで梨来の様子を見ていたＴＡＭＡが、すかさず突っ込
んだ。
「でも何か考え込んだ顔でミサキのところに行くか？？」
「確かにそうね・・・・」
「自分の部屋か？？」
「かもしれないわね」
　何と呑気な二人だろうと、ＴＡＭＡと雪蔵は心の中で溜め息を吐いた。